
「私たちが人生に意味を問いかけるのではなく、人生が私たちにどう生きるかを問いかけている」
~マーブルタウンで生き抜く力の学びを提供~
一般社団法人Nancy 代表理事
住田 涼(平成25年卒)
一般社団法人Nancy
https://gifu-nancy.org/
ぎふマーブルタウン
https://marbletown.wixsite.com/gifu/
岐阜大学在学中に、市民団体「ぎふマーブルタウン(こどものまち)」(事業名)を立ち上げた同窓生がいます。今回は、一般社団法人Nancyの代表理事をされている住田涼さんにお話を伺います。
「ぎふマーブルタウン」って、何なのでしょうか。
マーブルタウン(※1)をごく簡単に言うと、小学生が自分たちがやってみたいことをみつけたり、試したりできる架空の街です。仕事をして給料を稼いで税金を払う。そして集まった税金の使い道を決める王様を選挙で選ぶ。手作りした商品やサービスを提供するお店を、出店料を払って出す。仕事をするということから、職業体験できる街かと思われがちですが、キッザニア(※2)は子どもたちに職業の内容を知ってもらう、伝えるというインプット型に対して、マーブルタウンは子どもたちから様々な考え方、提案を引き出すアウトプット型となっています。例えば、警察のブースでは、「街の平和・安全を守る」という目的地が設定されていて、その目的地に沿っていれば、子どもたちが仕事を新たに考えてもいい、生み出してもいいのです。ある子が街の中を走っている子を危ないから逮捕しようと警察ブースで働き始めたのです。そうして、走っている子を追いかけていたらほかの警察官に捕まってしまった。そのあと、その子がどうしたかというと、カメラマンになっていたのです。走っている子をカメラで撮って警察に渡す仕事にかわったのです。警察官でなくても、走っている子の逮捕につながるのだという、とても大人では考えられない発想をしたのです。子ども達の職業の枠を超えた考え方には驚かされます。
マーブルタウンにはマーブルという通貨があります。マーブルタウンへの参加費は無料で、参加者には最初に10マーブルが渡されます。最初の10マーブルで出店することもできるのですが、仕事で稼いだお金で出店する子もおります。その10マーブルを出展料として役所に払って、店を出す子どもが参加者の約7割5分います。自分が作った商品を並べて販売する。いわゆる起業ですね。そこで商品が売れれば、その喜びを味わい、売れなければ、次はどうしたらいいのかを考える。自分で考え実行する。失敗すれば、また考えて挑戦する。その力を自分の中に育むのです。ある保護者から言われたことがあります。子どもが学校でいじめを受け自信をなくし、どうしていいかわからない時、マーブルタウンに参加したのです。そこで、自分の作った商品を参加者やボランティアの人が買ってくれた。それがすごくうれしくて、もっといい商品を作って売ろうと意欲がわき、いろんなものを作った。そして市の発明クラブで市長賞をとるまでに。マーブルタウンに参加したことで自信を取りもどせましたと。自分の頭で考え、自分の足で新しい道を作り出す力を育んでほしいと考えている私にとって、この話は本当にうれしかったですね。マーブルタウンでは、子ども達のこういった力を養うために、保護者は街には入れません。保護者がいると子どもは頼ってしまい、保護者の方も心配で口を出してしまうからです。スタッフの指示、口出し、手出しも基本NGにしています。うまくいかなくても次どうしようかと考えることを見守ってあげるのです。

子どもの頃の夢は。
小学生の頃は、大阪の田舎に住んでいたので、虫捕りとゲームばかりしていました。虫といっても、カブトムシやクワガタではなく、ナナフシ、タマムシなどちょっと変わった虫に関心がありました。好奇心だけは旺盛だったので無茶苦茶でかいショウリョウバッタばかり捕っていた時期もありました。図書館に行っては、シートン昆虫記、ファーブル昆虫記を読み漁り、将来何になりたいかと聞かれたら、虫博士かゲームクリエーターと答えていたごく普通の子どもでした。
滝学園時代、どんな生徒でしたか。
公立中学校から公立の高校に入りたかったが、内申点が悪く、落ちてしまった。塾の先生から勧められたのが滝高校でした。滝がどんな学校かわからなくて受けて、運よく受かったのですが、入ってみてびっくり。優秀で、頭の良い生徒ばかり。中学時代、それなりの成績だっただけに、その衝撃はかなり大きかったですね。実際、成績も悪く、そんな落ちこぼれ的な私を気にかけてくれたのが、担任の野々垣弘之先生でした。「だいじょうぶか」と常に声をかけてくれました。当時、のめりこんでいたのが演劇部で、その顧問を野々垣先生がしていたこともあったかと思いますが。演劇部には、入学早々、仲が良くなった子が入ると言ってついていったことがきっかけで入部しました。演劇部では、小道具部の一員として裏から支える仕事をしていました。モノづくりに興味があって絵を描くことが好きだったので、舞台に上がるキャストというよりも与えられた小道具の要望に応えることに喜びを感じていました。小道具を作ることはもちろん楽しかったのですが、その小道具をキャストに受け渡す際に彼らの顔が明るくなるのを見るのが好きでした。ある舞台で一万円札を使うというので、作ってほしいと。紙幣をコピーして使うのは問題があるので,手描きしていたのですが、福沢諭吉の代わりにキャストの似顔絵を描いたのです。それを渡したときのキャストの笑顔は今でも覚えています。演劇部では目標に向かって全力で打ち込む楽しさを知りました。演劇部が高校生活を明るいものにしてくれたと思っています。
大学は、やりたい専攻科目とか進路を考慮して学部を決められたとか何か理由みたいなものがありましたか。また大学時代は、どんな生活でしたか。
高校3年の時、胸の病気で1か月入院しました。手術も2回して、「もしかしたら死ぬかもしれない」と。その時思ったのが、今後の人生について「やり残しのない人生にしたい」「自分のやりたいことは全部やって悔いのない人生にしたい」でした。そこで改めて、自分は何をしたいのか、何に興味があるのかを真剣に考えました。出た答えは“モノづくり”。モノづくりに進みたい。モノづくりとはメーカー、メーカーに入るには大学の工学部と単純に考え、工学部を目指したのです。岐阜大学を選んだのは、電気電子、情報工学両方学べることができたから。しかし、そう簡単なものではなかった。受験勉強を真剣に取り組んでからの時間が短すぎました。E判定だった岐阜大学は当然のごとくダメ。浪人を覚悟して河合塾の試験を受けたほど。そうしたら岐阜大学の後期試験が受かったのです。センター試験も6割ぐらいしかできていなかったので、どうして受かったのか今でもわかりません。
入学して、どこかサークルでも入ろうかと探していた時、ふと目に留まったのがインターンシップのポスターだったのです。インターンシップの中でも経営者と学生が二人三脚で新規事業に挑む、「実践型インターンシップ」という形態のものでした。「これはおもしろそうだ。よく分からないけどやってみたい」とすぐに運営会社に連絡しました。それから、中期、長期のインターンシップをいくつかやりました。
中でも最も記憶に残るものが、大和商会という工作機械、機械工具の商社での半年間のインターンシップでした。商社ということで営業に挑戦するものと思っていました。しかし社長からの「将来何がしたいの?」という問いに「人を繋いでモノづくりをしたい」と答えたところ、その夢への共感と事前課題の頑張りを認めてくださったことで、「今やってみる?」と、エンドミルという切削工具の新規開発をご提案くださいました。もちろん、「やりたいです」と即答しました。町工場でヒアリングをし、ニーズを集約。社内の営業マンとニーズをもとに話し合いを繰り返し、メーカーにサンプルを作ってもらうまでに。作られたサンプルを町工場でテストとして使ってもらったら、上々の評価を得たのです。そのエンドミルはアジア最大の展示会に出品。そこでも反響を呼び、メーカーでの量産が決定したのです。モノづくりのすばらしさを知れたことで、大和商会でのインターンシップがすごく心に残るものとなったのです。その製品はいまだによく売れているようです。製造の現場で役に立っているということで、自分も少しは世の中の役に立てたのかなと改めてモノづくりのすばらしさを感じました。
このインターンシップをコーディネートしてくれたのが、NPO法人コラボキャンパスであり、マーブルタウンを岡崎で開催していたのが、このコラボキャンパスだったのです。そこでマーブルタウンと出会ったのです。その魅力に取りつかれ、大学祭でマーブルタウンを開催し、評判が良かったことから、これを岐阜で広めようと、任意団体「ぎふマーブルタウン実行委員会」を設立。ママさんイベントに通って、ママたちに協力のお願いをし、学生の協力も得て設立できました。卒業してからも続け、2018年には経済産業省の第9回キャリア教育アワード奨励賞を受賞することができました。それを機会に一般社団法人Nancyを立ち上げたのです。NPO法人にすることで、マーブルタウン以外にも子どもたちの役に立つことができるという思いがありました。
マーブルタウンで子ども達に何を伝えたいですか。
子ども達はマーブルタウンで警察官、新聞記者、銀行員など多くの職業について自分なりに考えて、経験をします。自分の作った商品を売るという起業をする子も多くいます。一度やってみて、自分はこれではないなと感じたら、ほかの職業、仕事に目を向ける。編み物を売りたい子に対して、編み物を教えるというサービスを提供する子も現れました。マーブルタウンでは子ども達に職業というものにアプローチできる機会を与え、人生にはいろんな道があるんだよということを伝えたい。子どものころって、世の中にどんな仕事があるのか知らない。知る機会だって少ない。そんな子どもたちに、何がやりたいかと聞いても、答えられるわけがない。マーブルタウンでは子ども達に実際にやってみる機会を与えるのです。そこで、「これがやってみたかったんだ」「これはちょっと違うな」「これはおもしろいが、もっとおもしろくさせられる」などを感じてほしい。いわゆるキャリアを模索できる機会にしてほしいのです。失敗と挑戦が許容された街だから、どんどん失敗して、どんどん挑戦をしてほしい。子どものうちから失敗することはすごく大事だと考えていて、そこから次どうしようかなど試行錯誤の知恵が養われると思っているからです。実際にマーブルタウンでは子ども達の柔軟な発想、何かに挑戦する力に驚かされることがよくあります。

趣味は何でしょう。
趣味というと怒られそうですが、子育てに今はまっています。1歳になるのですが、昨日できなかったことが今日できた、何か言葉を話そうとする、こけたりしながら歩こうとする、そんな成長していく姿を間近で見られる喜びを毎日味わっています。一緒に出掛けたりするときは、子どもが興味をもって関心が向くことに、子どもの目を通して今まで知らなかった世界が見れるのです。それが本当に楽しいのです。
座右の銘は。
座右の銘ではないのですが、ユダヤ人の精神科医でホロコースト生還者であるヴィクトール・エミール・フランクル(※3)の「私たちが人生に意味を問いかけるのではなく、人生が私たちにどう生きるかを問いかけている」という言葉が好きです。同じような意味で彼はこうも言っています。「人生から何を与えてもらうかではなく、人生に何を与えることができるか」。
高校生の時、病気で入院しているときに知った言葉です。たんたんと生きてきた自分が病気を患って、「明日死ぬかもしれない」「自分の人生は何だったのか」「生まれた意味があったのか」などネガティブな思いにふさぎ込んでいた時でした。この言葉に出会って、自分が問いかけるのではなく、問いかけられているのは自分なんだと知らされ、生きる意味、生まれた意味は自分自身でみつけなければいけないのだと気がついたのです。そして、それによって、その後の人生を前向きに考えることができたのです。どん底にいた私を救ってくれた言葉です。
滝学園の在校生、卒業生(二十歳代の若手)に対し、今後の進路を決めていくうえ、さらには、生きていくうえでの助言がありましたら。
「キャリアの8割は偶然でできている」という言葉があります。計画的偶発性理論というもので、偶発的に生じる出来事がキャリアに大きな影響を与えるというものです。例えば、興味本位で受けたセミナーがきっかけで新しい職種に関心を持った。そこから新たなキャリアにつながっていく。偶発の出来事はただ待つのではなく、自ら引き寄せないといけないとも言っています。引き寄せるために常に心がけていなければいけないことがあります。新しいことに興味を持つ、失敗してもあきらめず挑戦する、ポジティブに考えるという姿勢です。要は、何事にも関心をもって、挑戦し、失敗してもまた次だというポジティブ精神で進んでいけば、自分がやりたいこと、自分が向いていることに近づけるということです。マーブルタウンでは、子ども達は興味をもったことに取り組み、成功しても失敗しても、次のステップに進もうとします。失敗することはすごく大事なことです。特に小学生のうちでの失敗の経験は今後の人生に大いに良い影響を与えてくれます。子どものうちに失敗することで人はレジリエンス(回復力)が養われるからです。私が皆さんに言いたいこと、それは「若いうちからどんどん失敗をしてほしい。失敗を恐れて何もしないのが一番の問題です」。
タレントのさかなクンが言っていました。魚の世界では海においては“いじめ”はないが、水槽の中では“いじめ”がおこると。学校という小さな世界でいじめにあって悩むことがあるかもしれません。そんな時は、もっと大きな世界を知ってほしい。大きな世界を自分の足で歩くことを想像してほしいのです。マーブルタウン開催の大きな目的は子ども達の「生き抜く力」を引き出すことです。皆さんも、いろんなことに挑戦し、失敗し、この「生き抜く力」を身につけてほしいのです。自分の好きな道を見つけ、大きな世界に出て活躍することを祈っています。
▼編集後記
取材の後、8月23日(日)滝学園で「小学生が仕事に選挙に起業へ挑戦!?こうなんマーブルタウン」(08:45~17:00)の開催が決定しました。住田涼さんの益々のご活躍をお祈りいたします。
※1.マーブルタウン
「マーブルタウン」は、2009年に愛知県岡崎市の青年会議所で始まり、そしてNPO法人コラボキャンパスで運営が始まり、東海地域で立ち上がった。
ドイツのミュンヘン市で約30年にわたって開催されてきた7歳から15歳までの子どもだけが運営する小さな都市「ミニ・ミュンヘン」。これに発想を得て、「子どもたちだけで作る子ども王国」をキャッチフレーズに、会場に集まった小学生だけで仮想都市の自治活動や商店の起業・運営を行う体験ができる特徴の「マーブルタウン」。
子ども達が自分の「やってみたい!」を見つけたり試したりする中で主体性・協調性・創造性を引き出すことを大事にしている。
※2.キッザニア
キッザニア(英称:KidZania)は、メキシコで1999年に創設された、子供向けの職業体験型テーマパークである。Kid+z+aniaで“こどもの国”の意。現在は日本(東京都江東区豊洲、兵庫県西宮市甲子園、福岡県福岡市博多)、インドネシア、韓国、アラブ首長国連邦など世界中に展開されている。
キッザニアは楽しみながら社会のしくみを学ぶことができる「こどもが主役の街」。日本の施設の場合、体験できる仕事やサービスは、約100種類。本格的な設備や道具を使って、こども達は大人のようにいろいろな仕事やサービスを体験することができる。
※3.ヴィクトール・エミール・フランクル(ドイツ語: Viktor Emil Frankl、1905年3月26日~1997年9月2日)
オーストリアの精神科医、心理学者、ホロコースト生還者。ウィーン大学医学部神経学・精神医学教授。その間、ウィーン・ポリクリニック神経科部長を務め、またアメリカの合衆国国際大学、ハーバード大学、ダラス大学などでも講義。世界の27大学から名誉博士号を授与される。フロイト、アドラーの後を受けて、ウィーン第三学派と称されるロゴセラピーを創始し、実存(ないし人間性)の立場に立つ精神療法を唱えた。著作は多数あり日本語訳も多く重版されており、代表作は『夜と霧』。
[プロフィール]
住田 涼(すみた りょう)
一般社団法人Nancy 代表理事
認定キャリア教育コーディネーター
(キャリア教育コーディネーターネットワーク協議会認定)
1994年5月 大阪府和泉市生まれ
2013年3月 滝高校卒業
2013年4月 国立大学法人東海国立大学機構岐阜大学工学部入学
2016年4月 任意団体「ぎふマーブルタウン実行委員会」を設立
2018年12月 経済産業省“第9回キャリア教育アワード”奨励賞受賞・任意団体ぎふマーブルタウン実行委員会
2019年1月 (非営利型)一般社団法人Nancyへと法人化 代表理事(現任)
2020年3月 国立大学法人東海国立大学機構岐阜大学工学部電気電子・情報工学科卒業
※プロフィールは、2026年6月30日時点の内容を記載しています。