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滝学園同窓会オフィシャルサイト

丹羽宇一郎氏講演会「ポストグローバル時代をしなやかに生きる」

丹羽宇一郎氏講演会「ポストグローバル時代をしなやかに生きる」

土曜講座15周年記念 丹羽宇一郎氏講演会
「ポストグローバル時代をしなやかに生きる」(2016/4/14開催)

 4月14日(土)、江南市民文化会館大ホールにおいて、土曜講座15周年記念講演会が行われました。この講演会は同窓会のご援助により、毎年4月に開催されているものです。
 今年の講演会にお招きしたのは現在、日中友好協会会長・グローバルビジネス学会会長をお務めの丹羽宇一郎氏です。当日はお忙しい中にもかかわらず、同窓会役員の方々にも多数のご参加を賜りました。この場をお借りして厚く御礼申し上げます。
 丹羽宇一郎氏は1939年、愛知県にお生まれになり、1962年3月に名古屋大学法学部を卒業されました。同年4月に伊藤忠商事に入社、主に食料部門に携わってお仕事をされました。1998年4月伊藤忠商事社長、2004年には会長に就任され、2010年まで在任されました。この間、2006年に経済財政諮問会議民間委員、2007年には地方分権改革推進委員会委員長などをお務めになりました。2010年6月~ 2012年12月には中華人民共和国駐箚特命全権大使の職に就かれ、尖閣諸島問題等の対応に力を尽くされました。
 当日の講演会では、アメリカの国力が衰え「ポストグローバルの時代」になったと言われるものの、「グローバル」であることは資源に乏しい日本にとっては「国是」であること、「しなやかに生きる」ためにはしっかりとした「軸」(=「価値観」)を持たねばならないこと、周囲の人々の信用を勝ち取るためには「知識」(=「勉強」)が必要であること等々、これからの時代を生き抜く生徒たちにとっては生き方の指針となる、とても有意義なお話を伺うことができました。

■「ポストグローバル時代をしなやかに生きる」の講演記録メモ

■ポストグローバルとは?
 「グローバル」とは、世界的な、という意味で用いられている言葉である。その「グローバル」に「ポスト」が連なっているということは、「グローバル」は時代に応じて、現在まで変化してきたことになる。
 第二次世界大戦後の、政治、経済、軍事などの多くの分野でアメリカが支配的であり、全世界の国から目指されていた時代があった。その後、ソ連との冷戦という米ソ二極化の時代を経て、1991年のソ連崩壊による共産主義の否定が起こったことにより、アメリカは最盛期を迎えることになった。ところが、2008年にリーマンショックにより金融破たんが起こると、それまでのアメリカの資本主義が否定されることになり、アメリカは全世界のリーダーではなくなった。それと同時に、他国も台頭することで、世界の様相は変化することになる。
 しかし、いつの時代であっても各国間の協力なくして生活することは不可能であり、協力する相手は変われども、共同体を形成してきたのである。それは100年前でも、遥か昔のキリストの時代でも同様で、いつの時代でも「グローバル」は形を変えて存在してきたのである。

■現代社会の問題点
 かつて、世界人口が3億人の時代には、日本には何人の人がいただろうか。
 およそ1000万人程度であったと推測され、江戸時代には2000~2500万人程度とされている。当時は、食物の供給が十分でなかったことから, 世界的には人類は食料や資源を追い求め、移動を繰り返して生活していた。
 マルサスの人口論によれば、人口の増加は幾何級数的、つまり掛け算的に増加していく一方で、食料や資源は算術的、つまり足し算的に増加していくのである。1900 年に16 億人であった世界人口は、2015年には72億人を超えており、どこまで増加するかは予測ができない。ローマクラブの提言によれば、地球が耐えうる人口は、食物や水、エネルギーなどの観点から、およそ100億人であると推定されている。
 例えば水については、幸いにして、日本は雨水に恵まれている。しかし食料自給率は40%程度であり、やはり他国との交流関係が必要である。そして、食料をつくるためには、大量の水が必要であるために、食物の輸入は「水を輸入している」と置き換えることができる。これは「バーチャルウォーター」とよばれ、日本が1年間に輸入している食料生産に必要な水量に置き換えると、琵琶湖の2.5個分にあたる。つまり日本は、明らかに大量の食糧輸入に依存しており、自国のみでは生きていけないのである。
 これは日本だけの問題ではなく、各国がそれぞれglobalizationと自由貿易体制とする必要がある。しかし、近年は一部の国がそれを崩そうとする動きを見せている。いかなる国でも単一の国家のみで生きることはできず、その思考を失って自国第一で進めるならば、被害を受けるのは間違いなくその国であるはずだ。どのような形でも、「グローバル」という理念は無くならず、世界各国共これを守らないと生きていけないのである。

■しなやかに生きるとは?
 日本は自由と平和、平等を続けなければならない。そのためにはしなやかに生きなければならない。軸がしっかりしているときはいいが、軸が動くとフラフラする。軸をしっかりして生きるために、価値観、ものの考え方をフラフラさせてはならない。大切なことは知識ではなく、人から信頼されること、人から信用されることである。知識だけでは不十分であるが、知識があると揺るぎない心、揺らぎのない軸ができる。信頼してもらえないのは知識不足のためであり、すなわち勉強不足のためである。これを決して忘れてはならない。自分で自分を偉いと思ってはいけない。自分が偉いと思っている者に限って何も知らない。あなたが優秀かどうかを決めるのはあなたではない、他人だ。
 現在ハーバード大学には日本人は11、12人。中国人は520人。この差が20 年後、大きい。みなさんはとなりに勝てばいいと思ってはいけない。となりの友人に勝ってもたかが知れている。海外の同じ世代に負けぬように勉強しなければならない。勉強して覚えることは心を鍛えることだ。自分の考えをしっかりまとめ、もつ必要がある。そこで申し上げたいのが「 ジャン・クリストフ」という本だ。私の大学時代の収穫は、この本を読んだことだけだ。これからみなさんがどんな人生を歩んでいったらいいのか、この本を読めば参考になるであろう。自分に正直に強く生きることがいかに難しいか、この本が教えてくれるはずである。
 しなやかに生きるということはそういうこと。そういう勉強をしなさい。そういう本を読みなさい。日本以外の有名な方の考え方を学びなさい。あなたたちは恵まれている。いつでもそのような方と話ができる。その人が書いた本がいっぱい出ている、それも日本語で。そういう会話ができるではないか。本を読みたくても読めない人は世界にはいっぱいいる。でもあなたたちは勉強しようと思ったらいくらでもできる。その時間を大事にし、世界の同級生に負けないように、中国に負けないように。仕事は人生そのもの。仕事を一生懸命するという事は人生を一生懸命いきるということ。みなさんは仕事の代わりに勉強だ。プロにならなければならない。プロになる中で、人生を学んでいくものである。勉強をとったら生きていけない。与えられた勉強を一生懸命やる。周りの信頼を得る。全部みなさん一人一人がつくり上げていくことである。