コンテンツへスキップ

滝学園同窓会オフィシャルサイト

大学という世界を選んで

東北大学電気通信研究所 教授 石黒章夫(昭和58年卒・普)

 東北大学で研究室を立ち上げてからはや10年が経ちました。滝学園を卒業以来、大学生、大学院生、助手、助教授、そして教授へと名前(と時には所属先も)を変えつつもずっと大学で暮らしてきたことになります。現在は、生物が示す生き生きとした振る舞いに内在するからくりを、数式やロボットという「模型」を創りながら理解するという研究に取り組んでいます。優れた機能を持つロボットの構築を「目的」として生物から着想を得るという工学志向の研究は多いのですが、ロボットを生物のからくりを解明するための「手段」として用いるという理学志向の研究を行っているところは世界的にもあまりありません。まして実際に生き物を飼育してその振る舞いを自身の眼で観察しているロボット系の研究室は現在ほとんどないと思います。生物学と数理科学、そしてロボット工学という異分野を一研究室でカバーする「芸域の広さ」はうちの大きな特徴となっています。最近の研究内容を少しだけ紹介したいと思います。イヌやウマなどの四脚動物は四本の脚を巧みに協調させて移動していますが、各脚をどのようなタイミングで接地・離地するかは移動速度や動物種によって変化します。この現象の背後にはいったいどのような(制御の)からくりがあるのでしょうか? この疑問に対して、最近ようやく説明に耐えうる、新しい理論ができつつありとてもワクワクしています。それでは昆虫のような6脚は? ムカデは? 脚の本数が変わるとからくりも変わるのか? あれっヘビは進化の過程でなぜ手足を捨てたのだろうか? などなど脱線しつつも次々と新たな疑問が湧いてきて、学生さんたちと日々あーでもないこーでもないと熱く議論を重ねています。
 現在はこのような理学志向の研究をしていますが、大学院生の頃はかなり産業寄りの研究をしていました。産業界と強く結びついたテーマはそれなりに面白かったのですが、自分が本当にやりたいことは果たしてこれなのだろうかと毎日自問自答していました。そのため本業の研究テーマはそっちのけで、生物学など他分野の文献を読み漁っていました。はたから見れば真剣に本業に取り組んでいないわけですから、研究を直接指導していた教員からは不真面目な学生と思われていたに違いありません。ただ、その時に蓄えた引き出しが最近になって大いに役立っているわけですから面白いものです。回り道をしてきたからこそ、本当にやりたいテーマに巡り会うことができたと強く感じています。
 教授になってからは、教育や研究以外にも、大学の運営、学会の仕事、様々な審査業務、講演や出前授業といったアウトリーチ活動など、こなさなければならない仕事が劇的に増えました。それでも国内外の研究仲間や学生さんたちから常に刺激を受けることができる環境に身を置けることは何者にも代え難く、この仕事はまさに天職だと感じています。まだまだやるべきこと、やりたいことが山積しています。絶滅した動物はどのように動いていたのかといった古生物学にもコミットできるような研究テーマも新たに始めてみたいですね。そのようなことを考えながら今日も大学に向かっています。